夜に駆ける

夜に駆ける

 

自宅のベランダから見える代々木のドコモタワーのライトアップの色が 少しづつ変化していると気づいたのは、つい先日でした。

 

ピンクの瞬間もあればミドリとシロの瞬間やムラサキの瞬間もあります。

 

きっとそれぞれに意味があるのでしょうが、今のところ規則性を掴めていません。

 

 

 

近頃はドコモタワーが消灯する0時よりも早く帰宅する日が多くなりました。

 

なにせ、新型コロナ感染症対策の営業自粛に則って22時に閉店しているのです。

 

とはいえ、早めに帰宅したからといって早く眠るワタクシではありません。

 

「夜の民」を舐めてもらっちゃ困ります。

 

 

 

アルコール濃度が高ければ高いほどお得だと思うバカや、

 

イヤホンの音が大きければ大きいほど良いと思うバカや、

 

味が濃ければ濃いほど美味しいと思うバカや、

 

映画の上映時間が長ければ長いほど名作だと思うバカや、

 

無料で使えるアメニティは使い倒したほうが贅沢だと思うバカがいるように、

 

 

我々「夜の民」は、夜更かしをすればするほど楽しいタイプのバカなのです。

 

 

 

 

ある深夜の3時頃でした。

 

お散歩で立ち寄った公園のベンチに座って考え事をしていると、通りすがりの女性に声をかけられました。

 

「飲みます?」

 

酔っ払っているのでしょうか。女性が缶チューハイを差し出してきます。

 

「けけけ結構です」

 

暗がりからいきなり声をかけられ、思わず「結構です」の「け」をティーショットでダフるワタクシ。

 

「けけけ結構です。ありがとうございます」

 

「あ、男の人だったんですね」

 

どうやらワタクシを女性だと思って声をかけてきたようです。

 

恐らく服装で判断したのでしょう。

 

マスクで顔を半分隠したワタクシはその夜、膝まであるオーバーサイズのニットのセーターを着用していました。

 

確かに、見ようによっては女性向けのドルマンスリーブのニットワンピに見えます。

 

「男です。すいません」

 

「何してるんですか?」

 

「ぼーっとさせて頂いてました」

 

男が公園のベンチに座っているだけなのに、どうしてこんなにへりくだってしまうのでしょうか。

 

なんとなく、箱と中身が違う気がするからでしょうか。

 

back numberのCDケースの中にボブマーリーの盤が入っているような感じ。

 

深夜の公園のベンチでおっさんが考え事してるというのは、それくらい違和感のあることだと自覚しているからかも知れません。

 

「ふぅん」

 

女性は特に面白くもなさそうに隣のベンチへ腰掛け、

 

「あのー」

 

と、おもむろに手持ちのビニール袋に手を突っ込み、再び缶チューハイを差し出してきました。

 

「あのー、飲みます?」

 

二度目です。

 

もうダフりたくありません。

 

「お言葉に甘えて。ありがとうございます」

 

ワタクシは差し出された缶チューハイを受け取ると、

 

200ヤード飛ばす勢いで球を打ち抜いたドライバーみたいな心地よい音を鳴らして缶チューハイをプルトップを開け、手を伸ばして相手の缶と触れ合わせました。

 

「かんぱーい」

 

「いただきまーす」

 

喉をくだる強炭酸のチューハイは心地よく、アルコールの助けもあって次第に会話はくだけてきます。

 

同じ「夜の民」が公園のベンチでふんわりと会話を始めるのに、足りないものなど何もありませんでした。

 

 

 

しばらくすると、手持ち無沙汰になった女性が提げていたエコバッグから一冊のノートを取り出しました。

 

「なにそれ、ノート? ですか?」

 

「あ、うん。交換日記」

 

誰と。とは言いませんでしたが、女子同士の交換日記なのだろう。なんとなくそう感じ取れました。

 

ノートの表面にキャラクターのデザインが施されているのが電灯の薄明かりで確認できます。

 

「サンリオですか?」

 

「え? あたし?」

 

「いや、そうじゃなくて、その表紙のヤツ、なんて名前のキャラクターなの?」

 

「ああ、これ? 知らなーい」

 

「あ、そうなんですね」

 

「そうだ。 せっかくだから名前つけよう。なんて名前がいいかな??」

 

「そのキャラクターの名前?」

 

「うん。ノートの名前」

 

「ジョアンナ」

 

「どうして?」

 

「適当です」

 

「いいね。 ってかジョアンナってなに? 彼女か何かの名前?」

 

「ううん。マジ適当。レオナルドとかマイケルみたいな感じ。ただの人称名詞」

 

「ふぅん。ミッシェルみたいな?」

 

「そう。ステファニーみたいな」

 

「ところであなた、なんて名前なの?」

 

「山崎」

 

「ふぅん。下の名前は?」

 

「響」

 

もちろん、どちらも著名な国産ウイスキーの銘柄なのですが、彼女はそれには気づかなかったようです。

 

「響っていい名前だね。漢字一文字の男性の名前って好き。なんだか少女漫画の登場人物みたいでしょ」

 

「うん、そうかもね」

 

「そう! 正解!」

 

「え?」

 

「これは「うん」で終わるだけの話なの。だからその反応が正解」

 

「、、、ありがとう」

 

「あ、まだチューハイあるけど、飲む?」

 

「ありがとう。いただきます」

 

こんな時間に住宅街の公園を歩く人はなく、まるで人類最後の2人がここで待ち合わせたような錯覚に陥ります。

 

「いつもここでチューハイ飲んでるんですか?」

 

会話の糸口をたぐろうとしたワタクシを、彼女はまさかと笑いました。

 

「いつもはもう寝てるよ」

 

「4時前ですしね」

 

「こんな時間に元気なの、コンビニと響くらいだよ」

 

自分で偽名を名乗っておきながら、それが誰なのかと思わずたずねそうになります。

 

「僕だっていつもはもう寝てますよ」

 

まあ、それも嘘だけど。

 

 

 

 

住宅街の公園はたいへん静かで、かえって時の流れを感じます。

 

「喧嘩したんだよね」

 

彼女がおもむろに口を開き静けさを割きました。

 

「喧嘩したんだよね、一緒に住んでる人と」

 

脈略なく飛躍した論旨に思わずワタクシが黙ると、彼女は続けます。

 

「よくするんだよね、喧嘩。でも今日は、なんか、怒って『もう出て行け』って。追い出されたからここに来たの」

 

「追い出されたからって、わざわざ公園でチューハイ飲まなくても」

 

「他に行くところないし」

 

「確かにそうですよね」

 

他に行く場所のない人間を追い出す事そものもが、相手の目的なのでしょう。

 

そういう人は少なくありません。

 

感情的になって、相手を困らせることによって溜飲を下げる。

 

大抵は、議論に負けそうになると振りかざす伝家の宝刀です。

 

叱責されたアルバイトの「じゃあもう今日でバイト辞めます」みたいなものです。

 

これまでの関係性をおじゃんにすることによって、イニシアチブを握ったような気になっているのでしょう。

 

「それで、あたしもムカついたから貴重品だけ持って出てきたの」

 

え? 交換日記って貴重品なの?

 

ワタクシの中で、貴重品という言葉が指し示す領土が大きく広がった瞬間でした。

 

「よくわからないけど、そういうパターンって、帰っても大丈夫だと思いますよ」

 

「そうかな」

 

「相手を追い出したところで問題は一ミリも解決していないし、勢いで飛び出たって解決しない。向き合うべきは喧嘩になってしまった争点であって、決して二人の関係性そのものではないんじゃないかな」

 

恐れおののいたダチョウが土の中に顔を突っ込んで現実から目を背けるような愚かな振る舞いです。

 

なんて、まさか初対面の相手には言えません。

 

 

 

「響ってさ、」

 

「ん?」

 

「響ってさ、アイスで言うとバニラみたい」

 

「、、、、スウィートな男ってこと?」

 

「ううん。定番って意味」

 

「定番?」

 

「優等生みたいな回答」

 

「そうかな。劣等生だったよ。今でも社会のレースでビリから2番目くらいを走ってるし」

 

「とっても、優等生が正解を言ってますよって感じ。都内の実家から通ってる大学生が飲み会で語ってるみたい」

 

「なにそれ。全能感に満ちてるってこと?」

 

「うん。都内に実家ある人、ずるいよね」

 

「そう、、、かな?」

 

「だって都内に実家だよ」

 

なんなのでしょうか。都内の実家に対する強烈な執着に思わず笑いそうになります。

 

「都内に実家がある人がみんな万能感に満ちた喋り方をする訳なじゃないと思うけど」

 

「でも響は都内に実家あるでしょ」

 

「ないよ」

 

「でも都内に実家ある人の喋り方してる」

 

「どんな?」

 

「宇宙の仕組みがわかったような言い方」

 

「宇宙の仕組みがわかるのは、ストロング・ゼロを飲んだ時だけですよ」

 

 

束の間、彼女は手を叩いて笑い、ワタクシを指差しました。

 

 

「飲んでんじゃん、実際」

 

 

言われて手元を見ると、チューハイの缶には小さく9%と表記されていました。

 

「あ、本当だ」

 

突然、立ち上がった彼女が手を振ります。

 

「今日はつきあってくれてありがとう。じゃあね」

 

「あ、帰るんだ」

 

「うん。だって」

 

 

先ほどと全く同じ言葉を、全く違う表情で自嘲しました。

 

 

「だって、他に行くところないし」

 

 

「ですよね」

 

都内に実家ないしね。

 

「じゃ、気をつけて」

 

「うん。おやすみなさい」

 

 

 

 

残りの缶チューハイを飲み干しながら、住宅街へ消えていく名前も知らない彼女の後ろ姿を見送りました。

 

交換日記を持ち歩いているってことは、つまり、交換日記の往復を止めたままにしているってことだよなぁ。

 

たしかに、交換日記を止めるタイプの人だよなぁ、なんとなく。

 

いや、もしかしたらあのノート、交換日記なんかじゃなくて、彼女本人の日記帳だったのかも知れない。

 

ノートを取り出したところを目敏く指摘されて、咄嗟に誤魔化したんじゃないかな。

 

家を出るときに、日記を同居中の彼に読まれまいと持ち出した。とか。

 

いや、そもそも「彼」とは言ってなかったな。「彼女」かも知れない。

 

結局、俺も彼女も「自分のこと」なんて一切話してなかったんだ。

 

でも、何も知らないくらいが「夜の民」の交流にはちょうどいいのかも知れない。

 

きっと昼間にすれ違っても気付かないだろうなぁ。

 

 

ランチタイムの間借り

 

夜の散歩では昼間にすれ違っても気付かない出会いがあるように、当店のランチタイムは現在、夜の営業とはかけ離れた絶賛おしゃれランチを展開しております。

 

そうです。

 

気づけば間借り企画も3軒目です。

 

コロナ禍で厳しい中ではありますが、UberEATSなどを駆使したり、常連さんを増やしていっているようです。

 

昼飲みにも対応していて、そちらの需要もそこそこ拾えているそうです。

 

主力のメニューは全粒粉のバンズを使ったハンバーガー。

 

お昼にお近くへお立ち寄りの際は、是非お運びくださいませ。

 

なお、プロピオン酸カルシウムやグリシンやグルコン酸カリウムやソルビン酸などの添加物がいっぱいのバンズが好きな方はマ○クへどうぞどうぞどうぞ。

 

 ↑ 年始一発目から可燃性の文章を書いてしまいました(マ○ク、ごめんて。)

 

なんだか食品添加物の名前って列挙するとイカツイですね。

 

美味しいものはキッチンではなくラボで開発されていますからね。

 

というわけで、次回は食品添加物を使ってある検証をしてみたいと思っております。

 

 

それでは、手洗いうがいを忘れずに!!( ̄▽ ̄)