転がる居酒屋に苔は生えない

遠い夏休み

 

あ、ども。

 

気づけばあの暑かった夏も過ぎ去り、今年もまた中野坂上を冷やす大気に胸を締め付けられています。

 

 

最後にセミの鳴き声を聞いたのはいつだったかな。

 

つい一ヶ月前だった気もしますし、小学6年の夏休みだったような気さえします。

 

 

一般に、セミは7年間を土の中で幼虫として過ごし、やがて成虫としてたった一週間の命をまっとうします。

 

水平線へ沈む直前に最も赤々と燃える夕陽のように、ヤケクソなほどガナリたてて残りの命を燃やすセミにぼくらはそこはかとない感傷を抱いたりします。

 

盛者必衰。

 

命あるもの、必ず衰えます。

 

 

小学6年のぼくにも、あの日けたたましく鳴いていたセミにも、決して8月32日なんてものはやってきませんでした。

 

 

 

太古の昔、この地上にまだ多様な生命が存在していた頃の話です。

当時、1年周期や2年周期で孵化する種類のセミも存在したそうです。

1年や2年だけではなく、数十年に一度だけ孵化する種さえ存在したそうです。

そう。

毎年、色とりどりの様々な種類のセミが孵化しては古代の地球に不協和音を奏でていたのです。

 

しかし現在、それらの種は現存していません。

生存競争に負けてしまったのです。

 

では、どうして1年や2年の短周期のセミが生存競争に負けてしまったのでしょうか。

 

繁殖サイクルが速い種のほうが、再生産がすすんで繁栄するのではないだろうか。

 

 

いいえ、現実はそうではありませんでした。

 

 

1年周期のセミは、2世代に一度は必ずその個体数を減らさなければなりませんでした。

 

なぜなら、2年周期のセミとバッティングして殺し合うからです。

 

同様に、3年周期の種や4年周期の種ともバッティングする世代があり、ほとんどの世代で他種との競争を強いられてしまうのです。

2年周期のセミも、1年周期や4年周期は頻繁に生存競争を繰り返します。

3年周期のセミも同様に1年、2年、6年のセミとは因縁の仲となります。

 

そうです。

 

現存している多くのセミの繁殖周期は、すべて素数なのです。

 

7年、11年、13年のセミは、その繁殖周期が素数なので、それほど多くの種とバッティングすることがありません。

 

このようにして、現在、「セミは7年周期で繁殖する」という定説が出来上がったのだそうです。

 

 

これはぼくらの生きる現代社会にも応用できる、ある種の「生存戦略」なのではないでしょうか。

 

 

 

自分に置き換えて生存を図る

 

そこでぼくはこう考えます。

 

「裁判所通り」に、串揚げ居酒屋おおすぎじゃね?

 

並びの「串カツ田中」さんに、東中野方面には人気店「アゲアゲ」さん。

ほかにもあるらしいのですが割愛させて頂き、末席の当店。

 

もはや1年周期と2年周期が群雄割拠してしのぎを削っているような状態です。

 

このままでは生存競争の中でカニバリゼーションをおこしてしまうのではないだろうか。

 

共食いが発生すれば、屋台骨のもろい当店は真っ先に潰れます。

 

 

いや、それはまずい。

ぼくにも家族があるし、まだ祖父母も健在です。

嘘でも「幸せそう」に生きている姿を見せるのもひとつの孝行なのです。

店が潰れるのは、ほんとうにまずい。

 

 

ではぼくはどうやってこの生存競争を生き抜くべきなのか。

 

そのヒントはセミです。

 

そう。

 

7年周期のセミになればいいのです。

 

繁殖周期こそ遅いけれど、他種とバッティングしない生き方を選べばいいのです。

 

 

 

 

という訳で、当店、

串揚げ居酒屋、やめます。

 

 

 

 

実はいま、串揚げを撤廃した場合の新しいメニューを試作したりしてます。

その上、次のメニューではワンオペで店を運営できるような構成にします。

仕込みの少ない日には、鮮魚を仕入れたりして黒板メニューとして提供します。

労働者への負荷の軽減と人件費の削減を並立させ、原価率を上げて値ごろ感を出していきたいと考えてます。

 

まだこの段階では不十分ですが、こうしてオリジナルな色合いを出し続けていけばいつか当店も7年周期のセミになれるだろうと思います。

 

 

いろいろ細かく話すと長くなるので簡単にしますが、そもそも「串揚げでナンバーワン」になろうなんてつもりはさらさらありませんでした。

バブル世代ならともかく、ぼくらの世代の零細経営者に「○○でイチバン!」になりたいと考える人なんてあまりいません。

それが「ナンバーワンになれないから串揚げから降りた」と思われてしまうかもしれない。それは承知の上です。

1年周期のセミとして王者を目指すのではなく、あえて7年周期になって生存を図るのです。

後ろ向きに感じるかもしれませんが、それが事業の持続可能性です。

 

幸いなことに(いや、幸いじゃないかも)、当店は串揚げ居酒屋にも関わらず「サイドメニューがうまい」とよく言われます。

 

そのサイドメニューを軸に、晩飯としても利用できる居酒屋を目指してみようと思います。

 

 

なにぶん不安定な店ですが、今後ともご愛顧お願い申し上げます。

 

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