不都合な真実【実録☆開業日記11】





不都合な真実【実録☆開業日記11】

 

 

 

 

「えっ?????」

 

 

 

 

 

クエスチョンマーク5つでは到底足りないほどの驚きでした。

 

 

皆様、経験はおありでしょうか。

 

 

度を越した驚愕を経験すると、束の間、時間が止まるのです。

 

 

宇宙誕生のビッグバンのように膨大なエネルギーによって情報そのものが無限の空間に飛び散ります。

 

縦横無尽に散らばったそれら情報宇宙の中から一粒の「正解」をもとめて奔走するバッファ時間の分だけ、現実世界で時間が止まるのです。

 

 

 

 

追加工事費として40万円を請求したKさんをたいへん警戒していたぼくは、社長さんの言葉にしばしの宇宙旅行へ出かけてしまいました。

 

 

 

 

 

「そんな会社、存在しないんだよ」

 

 

 

 

・・・・・・存在しない会社・・・・・・?????

 

 

 

 

 

 

え~~~~~~~~~~っ!!???!?!??!?!?

 

 

 

 

 

 

Kさんの名刺に取締役と肩書きされた会社は、なんと

 

 

 

 

 

そ、ん、ざ、い、し、な、い。

 

 

 

 

 

のだそうです。

 

 

 

 

 

ほくはKさんの言葉を思い返しました。

 

 

「新しく会社を作って、これからは産廃の仕事も受けていこうと思ってるんだ」

「社長は別の人なんだけどね」

「まだ会社の口座を作ってないから、オレの個人口座にとりあえず100万円振り込んでよ、前金でさ」

 

 

 

そうです。

 

考えてみれば当然のことです。

 

会社の口座がまだできてないなんてこと、ありえない!!

 

会社を設立する際はまず会社の口座に資本金を振り込むのだから、口座を持たない会社なんてありえないんだ!!!

 

 

 

「うちの会社の名前を変えて新体制で一緒にやりたいとKさんが言ってきたんだよ」

社長さんは怒りをあらわに続けます。

 

「こっちにはメリットがないから断ったんだよ。そしたらKさん、勝手に名刺作って配ってるんだよ。こっちは断ったのにだよ?」

 

 

 

 

 

事の真相はこうでした。

 

 

 

 

十数年前でした。

 

電気工事士として遅めのデビューを果たしたKさんと知り合ったI社長は、Kさんの見積もり制作の甘さなどを見かねて「やれやれ、面倒見てやるか」くらいの気持ちで、見積もり制作の指導をしたり現場仕事を任せるなどの関係を続けてきました。

 

やがてKさんは施主とつながり、自分が元請けとして仕事を取るようになりました。

 

しかしKさんができるのは電気工事関連のみ。

 

大工仕事はI社長の会社が下請けとして担うようになり、相互に仕事を融通し合う関係が続いてきました。

 

しかしその過程で、まだまだ見積もりの甘いKさんは、時に大赤字を出してしまうこともしばしば。

 

そんな時、Kさんはいつも「無い袖は振れない」とI社長への支払いをバックレるのです。

 

大工さんを30連勤させた挙句5万円しか支払わないなどのブラックっぷりで、これまでにたまったI社長への債務は200万円超。

 

その全額が大工さんの人工です。

 

I社長が経費や自身の取り分を差っ引いて忖度してもまだまだそれだけの未払いがたまっていたのです。

 

ある時、業を煮やしたI社長が「全額支払って欲しい」と請求書を渡すと、一旦はそれを受け取ったKさんはそのまましらばっくれ「そんな未払金は存在しない」と開き直る始末。

 

 

 

 

「あいつ(大工さん)だけじゃないんだよ」

K社長は続けます。

 

「ほかの業者もみーんなそうなんだから。設備屋もクロス屋ももう二度とKと仕事したくないって人が多いんだよ。ある水道屋の職人なんか『着工前に全額支払わなきゃ工事しない』って言って、現場で現金受け取るまで手を付けないんだから」

 

 

 

 

いつかの大工さんの言葉がリフレインします。

「みんなKとは仕事したくない」

 

 

 

 

 

せめてお金さえしっかりと払っていれば適切な請け負い関係として周囲との軋轢は生まれなかったかもしれません。

 

 

う〜ん。。。。。

もはやKさんの「仕事ができない面」など瑣末なこと。

 

あろうことかKさんは最低限のことさえ出来ていないまま数年間を自転車操業で生きていたのです。

 

 

 

 

でも。

 

 

 

 

どうしてI社長は未払いのあるKさんとの取引をこれまで続けてきたのだろう。

 

 

 

 

その答えはシンプルでした。

 

 

 

 

I社長の会社の大工さんの腕が良かったのです。

 

 

 

二号店、三号店と他店舗展開していくオーナーさんが、

 

「前と同じ大工さんに内装をお願いしたい」

 

と発注するのです。

 

 

 

もちろん前回同様、元請けはKさんで、I社長が下請けとなります。

 

 

施主からのご指名ならばお役に立ちたいと思うのが職人です。

 

 

まだ未払いの残っているKさんからの仕事を請け負い続け、少し払っては少しバックレる方式で未払いの額は雪だるまのように膨らんできたのです。

 

 

そんな矢先、I社長はKさんから共同経営の打診を受けました。

 

 

「Iさんの会社の名前を変更して、代表はI社長のまま、自分と自分の友だちを取締役にしませんか」

 

 

 

「どのツラさげて言ってんだ」の最上級の表現を知らない自分の語彙力がもどかしいくらい、まじで、どのツラさげて言ってんだ! である。

 

 

 

 

産廃処理の会社で営業職をしている友だちが退職するかもしれないので、一緒に産廃の会社を立ち上げたい。

 

 

その足元の覚束ない夢想にI社長が便乗する理由など皆無で、当然、I社長は断りました。

 

 

 

「利益は三等分でいいからさ、Iさん、やりましょうよ」

 

 

 

繰り返しですが、まじで! どのツラさげて言ってんだ! である。

 

 

 

 

 

「オレも法人だと電材とか掛けで買えるし、助かるんだよね~」

 

 

 

 

しつこいようですが、まじで! どのツラさげて言ってんだ! である。

 

 

 

たしかに法人のほうが買掛ができる場合もあるでしょう。

 

しかしそもそもKさんは個人事業としても1円たりとも申告してないような身分で、自分の駐車場代でさえ一年近く滞納してるのです。

 

 

会社名義で電材を買ってI社長に支払わせようという魂胆はみえみえです。

 

 

 

 

 

しかし、そこはK氏です。

 

 

 

 

断られても折れないのが厚顔無恥な人の特徴と言っていいでしょう。

 

やたらメンタルが強いアナーキストのKさんはI社長に一方的に提案した「新社名」の名刺を勝手に作り、周囲に配り始めました。

 

住所や連絡先は現在のI社長の会社のまま、社名だけが「新社名」になった名刺に定款変更もしていないのに自分を「取締役」と肩書する図太さは新宿区でもトップクラスでしょう。

 

名刺には「産業廃棄物処理」も請け負うと書かれていますが、その実、「友だちが産廃の会社で営業をしている」だけなのです。

 

 

 

その理屈で言えばぼくも「モデル」です。うぇ~い♪


 

 

 

 

 

 

 

。。。という裏事情を全く知らなかったモデルのぼくは、前の職場の常連さんというだけの理由でKさんに内装工事一式を発注してしまいました。

 

 

というか、もう着工してしまってました。

 

 

というか、完了もしてないのに全額支払った挙句、追加工事費の名目でさらに請求されていたのです。

 

 

 

 

「新しく会社を作って産廃はじめるんだ」

 

少年のような眼差しで語ったKさんの姿が、ありありと浮かびます。

 

 

 

 

 

 

 

でも、、、、。

 

 

 

ぼくはまだどこかで前職場の常連客だったKさんを信じたいのかもしれません。

 

 

 

 

でも、あのKさんの瞳からはそんな詐欺すれすれの悪意は感じられないんだよな。

 

 

 

それとも「大欲の前では小欲を隠す」の精神でいつもニコニコしているのかな。

 

ってことは根っからの詐欺師気質なのかな。

 

 

 

 

いやいや、これまでそんな風に感じたことなんて一度もなかったじゃん。

 

 

 

もしかしてKさん、超弩級の夢見がちおじさんなのかもしれない。

 

 

 

 

言い換えるなら超絶マイペースおじさんだ。

 

 

 

 

読者モデルあがりの何を生業にしているか判らないタレント気取りみたいな人がよく「自分ルール」とかいって自身のライフスタイルを格言じみさせて紹介していたりするけど、Kさんにも歪んだ鋼のような「自分ルール」があって、あまりにマイ・ウェイすぎるから周囲の人にひたすら迷惑をかけてしまっているんじゃないだろうか。

 

 

 

 

支払いをバックレたり所得を申告しないのは本当にダメ、ゼッタイ!なことだけど、Kさんサイドにはそれをする余裕や必要性が無いからという独りよがりな合理性だけは生きているようにも感じるのです。

 

 

 

 

倫理、信用、義務<合理性、自己の利益

 

 

 

 

という鋼の不等号にだけは一本のつよい芯が通っているように感じます。

 

 

 

Kさんを警戒して秘密裏に捜査をすすめるうちに、Kさんの人物像やプロットみたいなものが輪郭を見せはじめてきました。

 

 

 

あと5分だけ寝かせてと言いながら50分遅刻するような中学生レベルのだらしなさを失わずにおじさんになってしまった人。

 

 

クレイジーキャッツのようにC調で、ノリスケさんのようにお調子者で、仕事ができないけどなぜか会社に居場所がある昭和のサラリーマン4コマに出てくるおじさんみたいな人。

 

 

現代の一般社会ではとても承認されないであろうダメな人。

 

 

高田純次のように「5時からオトコ」で、JUNJI TAKADAのようにテキトーな男。

 

 

さくらひろしのように人の話をきかないし、野原ひろしのように能天気。

 

 

両津勘吉のように守銭奴で、毛利小五郎のように他力本願。

 

 

 

 

でも。

 

 

 

それでも。

 

 

 

 

周囲の人に迷惑をかけるのは他人事ながらマジでムカつくけれど、それでもI社長や大工さんはKさんと付き合ってきたんだ。

 

 

 

 

 

職人の世界にはそんな昭和のダメな人を受け入れる心意気みたいなものが生きているのかも知れません。

 

 

 

 

ぼくはなんだか熱いものを感じながらも、一方で、どうにかKさんを懲らしめてやろうと考えていました。

 

 

 

 


前回まではこちらから

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