無職モラトリアム【実録☆開業日記6】

無職モラトリアム【実録☆開業日記6】

 

【前回】

 

・申込書の乱発。印鑑証明と住民票を取りに区役所へ行く無職の日々。

 

ふふふ。ならば実践あるのみ。

 

気に入った物件は、とりあえず申し込んじゃいましょう。

ロン毛の不動産業者からアドバイスをもらった僕は、

さしあたって気になっていた二件の物件にソッコーで申し込みをいれました。

 

高円寺の6坪と鍋屋横丁の6坪。

どちらも駅チカで理想的な面積でした。(立地戦略はこちら)

 

 

借りるつもりもない物件を申し込んで、良心の呵責はないのか。

うん、正直あの頃のコト、あんんまり覚えてないんだよねー、、、。

 

 

 




 

物件を探し始めて10ヶ月。

前の職場を退職して2ヶ月が経っていました。

 

緊張感のない日々で体調はいつも悪く、だいぶメンもヘラっていました。

二十年後の自分を変えたいと思って決意した独立開業も、翌日さえ見えない五里霧中の現実。

このまま「開業準備期間」の名を借りた無職生活もいつまで続くのか、口座残高とのにらみ合いの日々。

もういっそ何処かに就職でもして、毎日をかわしながら毎月25日の給料日を待つだけの生活を択んでしまおうか。

満たされない日常の穴に何かを埋めるように、YouTubeを朝まで見続けたり、パチンコにハマってみたり。

辞めた煙草を再開しては、後悔する。自暴自棄になって神社の賽銭箱にキャッシュカードを放り込む。んで再発行する。

青春マンガを読んで登場人物に自分を重ねてしまうような駄目な無職おじさんの完成品。

昼夜が逆転し、太陽を浴びなくなる。このままじゃ統合を失調する。怖いから深夜に散歩と称して徘徊する。

夜中に意味もなく本棚を引っ掻き回しては、別のダンボールに整頓して入れ直す。何をしているんだ、オレは。

ああ、それにしても常に頭が痛い。不安と憂悶が脳内に飽和しているような感覚で、それが首に重くのしかかっては肩こりを誘発する。

体が重いので横になる。気がつくと5時間経っている。すべてが憎い。本当は体じゃなくて、心が重い。

人生何度目かのモラトリアムは、僕から色彩を奪いました。

夜中になると不安に襲われて理由もなく涙が流れます。

まるですくい上げられたばかりのおぼろ豆腐のように不安定な精神のまま、真っ赤な目で虚空を睨みつけました。

たぶん「社会」ってやつを睨みつけたんだと思います。

 

 

 

 

心配した友達が飲みに誘ってくれた。

待ち合わせに向かうために乗った満員電車の乗客の中で、自分だけが社会に不必要な存在だと気づく。

働きもせずに、酒を飲みに出かける。クズである。

ああ、この電車内のほとんどすべての人に「仕事」と「責任」と「収入源」があるんだよなぁ。

昔読んだ町田康の「人間の屑」って作品の主人公がたしかガチクズだったな。

あ、練馬に8坪の空き物件あるみたい。申し込んじゃおっかな。ま、借りるつもり無いけど。えへへ。

そんなことより猫欲しいな。深夜の公園に盗みにいこうかな。でもうちペット禁止なんだよな。オレがペット以下の存在なのに。

 

 

 

 

・約二回めのプロポーズ

 

「中野坂上の物件、ご存知ですか?」

U氏からの電話だった。

これまでもU氏はことあるごとに連絡をくれては、物件を紹介してくれていました。

しかしそのほとんどは僕も既に確認済みのいわゆる「出回ってる物件」で、その都度、

「ああ、○駅○分、○坪のヤツですよね。ネットで見ました」

などと不発に終わることが多かった。

 

 

 

今回のは、たぶんご存じない物件だと思うんですけど。

U氏がそう切り出した物件の詳細を聞いた僕は、その日のうちに内見を済ませて申し込みました。

 

想定よりやや大きいけれど、まあ、ダーツマシンか本棚でも置けばいいじゃん。

その頃は辛うじて生命を維持する程度に生きていたので、深く考えてませんでした。

 

 

あーあ、世界終わんないかな。

自分だけ死ぬのとか、自分だけ残るのは嫌だな。

だから、せーので世界が爆発すればいいのに。本気でそんな事ばかり考えてました。

 

 

 

はい、せーのっ!!!

 

 

 

 




 

・ターンテーブルさばきは人生だ

独立するなら、働きながら準備すべきだ!

いいや、きっぱり職場を辞めてから本腰を入れて準備すべきた!

 

 

「きのこの山VSたけのこの里」くらい世間を二分するこの論争。

どちらが正しいかは個々のケースによると思います。

この部分で悩む方も多いと思います。

 

 

ただ、僕の経験で言うなら、

働きながら職場に協力してもらって徐々に開業を実行に移すべきだと思います。

 

ハウス系のDJ が「右のターンテーブルから左のターンテーブルにクロスフェード」させるくらいゆっくりとです。

 

 

 

仕事を辞めて「いざ独立!」ったって単純じゃないのが現実です。

退職して収入源を失う不安もそうですが、仕事を失うと、僕のようにそもそも自己評価の低い人間は、あっという間に自己否定感に全身を侵されます。

それまで仲間やお客さんから「店長」と呼ばれ店や社会にコミットできていた自分が、「個」としては所詮なんにもない存在だと思い至ります。

んで、死にたくなります。

 

「機能」として役割を全うすることを「仕事」と呼ぶという現実に辟易し「個」としての可能性を試すための独立開業だったはずなのに、卑小な自分を受け止められないほど僕のメンタルはあっけなく弱っていました。

 

自己を肯定するために「責任」や「役割」を付与することを仕事と考えていた僕は、大きな矛盾を内包しながら自分で自分を否定し続けいてました。

現実をみる能力すらないバカでした。

まるで骨組みだけで立っている博物館の化石になったような日々でした。

なにかの拍子に崩れ落ちそうな気分でした。そう、本当に些細なきっかけで総てが台無しになるような不安定な精神状態でした。

 

 

経験者としてはっきり申し上げます。

 

 

なるべくなら、ぎりぎりまで働きながら独立を実行すべきです。

 

「現実」と「将来」という両方のターンテーブルを回し、BPMが調和してから、フェーダーをスイッチする。

 

 

それが賢明なる開業と言っていい。ぼくは本気でそう思います。

 

 

 


 

中野坂上の物件を申し込むと同時に、ぼくは政策公庫の担当者へ連絡を入れ、事業計画書を提出しました。

しかし、前回の事業計画書に少し手を加えるだけでパパっと完成。なんて訳にはいきません。

 

 

なぜなら、

今回は、スナックの居抜き物件だったのです。

 

 

【続く】